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その目の先の、向こう側

by SAKI.S

灯りって、こんなんだったっけ。

このあいだ、ふとしたアクシデントで、コンタクトもメガネもつけずに、夜の街を少しだけ歩いた。

私はノーコンタクトノーライフの人間なので、久々にまっさらな裸眼で目にした外の世界は、ひどく危うく、でも同時に、どこか妖美な色気が漂う。信号や街灯、お店のネオンサイン、工事現場の点滅灯。そういった、ふだんは見慣れているはずの灯りが、光の水玉模様となって、どっと私に押し寄せてきた。

どうしようもなくカラフルで、きらきらしていて、でも儚くて。つかめそうでつかめない、決してたどり着くことのない光の海が、目の前に広がっている。

ふだん私が見ている世界も、このあいだ裸眼で見た世界も、どちらも現実で、ありありとしたホンモノで。でもたった一枚、レンズを通すか通さないかで、こんなにも景色は変わってしまう。

私たちがしきりに口にする、「現実」って何なんだろう。

***

「現実を見ろ」と、大人の人たちは平気で言う。むろん、私もその大人たちに含まれている。「とはいえ、現実的には厳しくない?」とか、「現実的に考えればやめたほうがいいよね」とか。「現実」って、そんなつもりはないのになんだか、ネガティブな雰囲気をまとわされている。

でもじゃあ、そうやって口にする「現実」を、立ち止まって改めて考えることは少ないんじゃないか。人によって見え方が違うことも、自分の環境・考え方が変われば「現実」の受け止め方が違うことも。どんなレンズを一枚目の前にはさむかで、「現実」なんていくらでも様変わりしてしまうのだ。

***

「現実」に絶望しているとき。それはきっと、目の前にはさんだレンズがもう古くなって、擦り切れてきているとき。帰るべきはレンズの向こうの「現実」かもしれないけれど、もしかするとほんとうに変えなきゃいけないのは、レンズの方かもしれなくて。

メガネをふとはずすと、こんなにレンズが曇っていたことに気づく。そんなときがある。かけっぱなしだと、その曇りにも細かい傷にも、気づかない。

ときにはレンズをかけていることすら忘れてしまうくらい、私たちは鈍感だ。
だから行き詰まったら、知らないあいだにかけていたレンズをそっと、外そう。

外したレンズの先に広がる世界は、もしかしたら、さっきとは違う色味を帯びているかもしれないから。

それでは、また。



SAKI.S
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